◆LOVERS◆ 大人の恋の短編集
結局俺は角膜移植の手術を受ける事によって、茜の葬儀にも参列する事が出来なかった。
俺は茜の死顔をみていない。
最後にふれた茜の唇は温かかった。
心がどうしても受け入れられない。
茜がこの世にもういないなんて……。
手術は無事成功し、俺の退院が明日に決まった頃には、季節はもう冬の足音が聞こえる頃になっていた。
ようやく長い入院生活はおさらばだ。
茜と過ごしたこの病院のあちらこちらをゆっくりと歩いてみる。
茜の病室までもう少し…
病室のネームプレート。
そこにはもう、別の誰かの名前が入っていた。
現実が重くて、苦しくて、どうしても心が受け入れることを拒絶してしまう。
この世界のどこかに茜が生きていると信じていたかった。
茜が俺に何も言わずに逝ってしまうなんて、ありえないはずだったんだ。