◆LOVERS◆ 大人の恋の短編集
ねえ、お月様
ここにいるのはあなたと私達だけ。
だからお願い、見届けてね。
私達の結婚式を。
あまり時間は無いの。
かつて親友だった女が邪魔者を連れてくる前に、彼とふたりで遠くへ逝くわ。
彼は寂しがりやだから、きっと待っているわよね。
私の顔を見たら、よく来たねって、抱きしめてくれるかしら?
愛してるって言ってくれるかしら?
彼の血で染まった真っ赤なドレスを着た私に、綺麗だよって言ってくれるかしら?
月の光に浮かび上がる彼の瞳は、無表情に私に見つめている。
愛を語ることの無い、色を失った唇に、そっと唇を重ね永遠の愛を誓う。
彼の頭を膝に抱き、深々と胸に沈んだ刃(やいば)を引き抜くと、ヌルリと毒々しい赤が伝った。
その血の一滴までが愛おしい。