おみやげ
私は、はぁ、と一人きりの弁論大会に溜息をついて、正面の空を見上げた。青黒い空に、聳え立つモニュメントの先端が鈍い輝きを放っていた。
緩い螺旋を描いて天へと伸びる6本の細長い長方形の柱。先に伸びるほど細くなっていって、終点となる最先端は、鋭い刃のように尖っていた。こういうのも、四角錐って言うんだろうか。そんなふうにぼんやりと観察していると、私は、ああ、と気がついた。こうやって全体を眺めてみると、天に昇る炎のように見えなくもないな、と。この街の中心で、朝も、昼も、夜も、ずっとずうっと燃え続けて、人々を、街を、明るく照らしているんだ。
……そんな妄想は、思いがけなく私の心を暖かくさせた。まあ、本当のところどうなのかはわからないし、もう作った本人でさえ、製作の意図なんてものを覚えちゃいない気がしてならないけれど。
『ゆきの!』
突然誰かが大声をあげた。私は驚いて声のした方向に振り返り……と思った瞬間、胸に衝撃が走り、身体がちょっと宙に浮いたような感覚でぐらりと揺れた。コントロールを失った私の視界は、足を止めることなく無表情にこっちへ目をやる人々の流れを映していた。
「八重ちゃん」
私は、私の名を呼び、私の胸に飛び込んできた人物の名を呼んだ。一連の騒動の張本人は、埋めていた顔を起こして私を見上げると、へへへ、と悪戯っぽい瞳を輝かせて微笑んだ。
このこは昔からこうなのだ。何時如何なる時も、人目を気にするなんてことはしやしない。一々どうでもいいようなことを自問自答する私は変なやつだけれど、表に出すようなことはしないから、私が変なヤツだってことに気が付いている人間は居ないだろう。だけど、八重ちゃんは違う。彼女こそ、世界が1ミクロンの疑いをかける余地もなく認める、正真正銘の変なヤツ、なのだ。……そして、私は、そんな彼女に憧れていた。
彼女は、愕く程に、素直なのだ。