おみやげ
初めて出会ったのは、幼稚園児の頃。そんな時分から人間は、ちっぽけな社会を造って、ジブンという名の仮面を、必死になって被っている。自覚無し。認識無し。私達は生まれてから死ぬまで、ジブンの仮面にまるで気が付くこともなく、ただ、生き続ける。そんな中、彼女はまるでそんな社会やルールが存在していることにすら気が付いていないかのように天真爛漫に振る舞い、いつもどこか、私達と違う場所で楽しそうに笑っていた。そんな、変人。
これは私の想像だが、もしかしたら、あの時皆も彼女のことを羨ましいと思っていたのではないか、と今では思っている。そうして年月が経った今、私と同じくして、自身に問いかけている人間が、他にも居るかもしれない。
即ち、自分と、八重ちゃん。本当に変だったのは、果たしてどちらであっただろうか、と。
「もう」
そう困ったような口調で言いながらも、私は自分が穏やかな表情になっているのを自覚しつつ、優しく身体を引きはがした。
「本当に」
と、私が口を開きかけた時、八重ちゃんの人差し指がピタリと唇に触れた。
『そのまえに』
私はぽかんと口を半開きにさせたまま、硬直する。
『じゃん』
と八重ちゃんがバラエティー番組さながらの効果音付きで私の目の前に差し出したのは、淡いピンクと空色に縁取られた、ファンシーな長方形の小さな箱だった。さらに八重ちゃんはその小さな箱の蓋を開けると、中から丸くて細長い物体を、スッと音もなく抜き出した。