おみやげ
誰かのすすり泣く声が聴こえた。まるで、誰にも聴こえないようにと、自分にも聴こえないようにと、むせび泣くような声。
かちゃ、と、ドアが開く音が聞こえた。泣き声の主はびくっと肩を震わせ、息を潜めるようにその身体を硬くした。泣き声はピタリと止み、急激に、周囲に張り詰めたような空気が漂った。
『本当に行かなくていいの?』
……それ以上言葉が続くことはなく、言葉の主は十秒ほどの沈黙を残したあと、ぱたんと扉を閉め、遠ざかっていった。
目の前には、壁があった。
私は、そっと指先で頬に触れた。
暖かな水が、指の間を、つうっと伝い落ちる。
涙
がばっ!
という擬音がつきそうな勢いで、私は後ろを振り返った。
そこには、部屋があった。私にとって、世界で一番何の変哲もない部屋。私の部屋が、そこにあった。
???????
私は暫くの間、呆然と魂が抜け落ちたように静止した。まともな思考が頭の中に湧き上がるまで、ゆうに三十秒は経過していた。