ガジュマルの木の下で
クジラを見に行くのだと
そう言って喜志は、またしても歩いて行く。
もう2キロ近くは歩いているだろうか。
祥子はだんだんと無口になって行く。喜志も疲れてきたのか、繋いだ手を何度も握り直している。

二人の間には沈黙が続いたが、祥子は決して嫌な気分にはならなかった。
海からは少し離れた。沈黙の向こうでは
鳥が鳴き、風が唸り
踏み締めた葉が軋み、枝の割れる音。
祥子はそんな沈黙を
心地好くさえ感じていた。
坂道を上りながら
舗装もされていない道を
ただ足を前に動かした。

ふと 喜志の足元が気になった。
(そう言えばさっきサンダル脱ぎ捨ててたよなぁ…今はいてるのとは違うし…)


「ねぇ喜志ちゃん、いつの間にサンダル履き変えたの?」

「あれ?」

……。

「喜志ちゃん?」

「喜志、サンダル人のやつ履いちゃってるみたい」
他人事のように答える喜志ちゃん

「え」

「まぁ…だいじょーぶ。歩けるから」

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