REGRET ―忘れられない人―
どうして一言声をかけられなかったんだろう。
廊下ですれ違うことがあったけど、俺は決して花帆と視線を合わせなかった。
3年の夏休み前だった。
勇気を出したのは、俺じゃなく花帆だった。
「新垣君・・・・・・」
ひとりで教室にいた俺に話しかけた。
とても小さな声で、まるで震えているみたいな声。
「何?」
机にドカっと座った俺は、面倒臭そうに返事をした。
ドキドキしていたのに。
恥ずかしくて、いじわるな言い方をしただけだよ。
本当に面倒だったわけじゃない。
でも、そんなこと、伝わるわけねぇよ。
俺が不安だった以上に、花帆は不安だったんだから。