オカルト・カルテ
「・・怒鳴ったところで無駄な体力を使うだけです。
それにこうなることを望んだのは自分たちなんですし」



逆らわずに受け入れないと
疲れてしまいます、



そういって今度はストラスを見た。




『・・・』



「・・まぁあなたが吼えたくなるのも
わからなくはないですけどね」



大魔王への面会を断られたうえ、
詩織への思わぬ監視。


それを自ら買って出たのは自分たちだが
こうもいやなことが重なるとさすがに
シュトリも簡単にはうなずけない。



まぁ、彼が短気であるというのが
理由のひとつであるのは難くないが。




ふう、と息をついたのが聞こえて
シュトリもそちらを見る。



『・・あいつは、今頃どうしてんだろうな』




心配するよう、というよりは
懐かしむような声音だった。




「・・そうですね。
またいつものようにドジばかりしてるんじゃないですか」



冗談半分な彼の言葉に苦笑するストラス。




『ハッ、いえてる。

あいつは俺たちがいねぇとなーんもできねぇもんな』



その言葉に、声音に。



気持ちを深くは読み取れなかった。
でも顔は見えなくとも、
きっと優しい顔をしているのだろう。



それを想像して、シュトリは思わず笑う。



『・・なに笑ってんだよ』


振り返った彼の顔は不機嫌そのもの。
自分が笑われたとわかっている前提からか。




「・・いいえ。何も」



『・・・』



疑い深げな彼にもう一度微笑んで、




「早く帰りたいですね、詩織のところに」




少し間をおいてから、
月を再び見て




『・・・ああ、そうだな』




つきは、温かい光を宿していた。
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