雨夜の月
「私、友達と約束してるから」

突然千里が言った。

「は?何言ってるの?」

私は驚いて声が裏返える。


「夜10時に駅前で待ち合わせね」

「ちょっと!!千里!!お泊まりなんだよ!!」

「ウチには泊まりなよ。嵐、10時まで頼むね」

嵐も食べる手が止まっている。

「お前…何てヤツだ」



千里は自分のパスタを早々に食べると、店を出て行ってしまった。

残された私たち。

静かに、ポツリとパスタを食べる。


「俺ら二人で何しろってんだ」


本当にそうだ。

いきなり二人きりにされても、それはとても困る。

まして、これ以上寄り添えないから、何していいのか分からない。


とりあえず、パスタを食べ終えて店を出た。


自転車を手にした嵐は、

「乗れよ」

と言って、サドルに跨いだ。



物凄い抵抗感があり、彼女が頭に浮かんで仕方ない。

「あ…歩かない…?」

「二人じゃん。乗った方が早いよ」

仕方なく嵐の後ろに座る。

「俺を持ってろよ」


そっと、嵐の脇腹に手を伸ばし、服の弛みを掴んだ。

服の下から、嵐の体温が伝わってくる。

こんな近くは初めてだ。

「行くぞ」

「…うん」


走り出した自転車は、風を切って嵐の匂いを私に届けた。


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