雨夜の月
嵐はなるべく、私に震動が伝わらない様、自転車を漕いでいた。

マンホールすら避けて通るから、その度に遠心力がかかる。


「公園でも行くか」


そう言った嵐。


土地勘のない私は、何も提案できない。

賑やかな駅前を通り越し、静かな住宅街を抜け、広い公園へ着いた。

自転車から降りた私たちは、街灯の下のベンチに腰掛ける。



「…何かごめんね」

「お前は悪くねぇよ」



そう言ったまま、嵐は言葉を止めた。



遠くに聞こえる車の音や、風に揺れる木々の音が私たちを包む。

月明かりに照らされた砂場には、昼間の子供が忘れて行ったんだろうオモチャがポツリと残っていた。


「俺らって何なんだろうな」


その質問を、嵐から受けるとは思っていなかった。


私こそが、探しているものだったから…。


「何だろうね」




また風が音を立てて、ブランコを揺らす。


「不思議だよ。お前は」

「不思議?」



問いかける私を、真っ直ぐに見つめて嵐は言った。



「こうやってても違和感ねぇよ」





ホントだね…。


違和感すらなく、心地良すぎる空気感。

嵐の瞳にそっと笑顔で答え、私は、今の瞬間を胸に刻みつけていた。


< 33 / 65 >

この作品をシェア

pagetop