雨夜の月
「ちょっと寒いな」


夜も更けるにつれて、しんみりと体が冷えてくる。


「何か飲むか?」


公園の入り口に設置された自販機を眺める嵐。


「温かいもの欲しいね」


私がそう言うと、嵐は自販機まで歩き出した。

土を踏む音、暗闇に消えそうな後ろ姿。


塞き止めていた想いが、もう全てを壊してしまいそうだ。


悲しい程に、ただ、好きなだけ。

ただ…好きな…人。


「うおッ!!」


嵐が変な声を上げた。


「どーしたのッ?」

「当たったよ!!」

「何が?」

「ジュース!!」



当たり付きの自販機だったらしい。



走って戻って来た嵐は、子供のように興奮を抱えて話した。


ホットレモンティー。
2本で120円。


『私にも幸運が降らないかしら』


嵐の顔を眺めながら思った。




まだ大丈夫。


まだ『友達』やれる。


私の決意を、嵐は知る由もなく、当たったレモンティーで冷えた体を温めた。



夜空には、星が沢山浮かんでいて、どれが一番星だったか分からない。


でも私にとっての一番星は、隣で誇らしげにレモンティーを飲む嵐だった。


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