流れ星との約束
 ロージンバックを右手で軽く弾ませると、安藤克也はホームベースの先で座っている吉田をジッと見た。
 
 克也は、今日の先発投手は神山だと思っていた。神山と吉田は仲が良さそうだったからだ。
 
 だからといって、自分の投球が神山に負けているとは思わない。神山がすぐにノックアウトされて、自分が登板するのだろうと思っていた。
 
 
「プレイ!」
 
 
 西村の声がグラウンドに響く。
 
――どういうつもりや、吉田。
 
 克也は右手でボールを握り、グローブと一緒に胸の前で構える。吉田からストレートのサインが出されたのを確認すると、彼は大きく振りかぶった。
 
 克也を火だるまにしようと吉田は思っているのだろうか。しかし、そう簡単に打たれるわけにはいかない。
 
 負けず嫌いな克也にとっては、この試合も勝ちたい。そのため、軟式上がりの捕手である吉田の方が足手まといになる可能性も充分にあるのだ。
 
――俺をリードできるか?
 
 足を上げると、流れるようにそのまま前に踏み出す。
 
――残念。無理だよ
 
 今の彼には、バッターボックスに立つ岸本すら見えていなかった。
< 60 / 77 >

この作品をシェア

pagetop