流れ星との約束
「甲子園ってあの甲子園?」
 
 
 我ながら馬鹿な質問だと遥斗は思ったが、光は真面目そうな顔で頷いた。
 
 遥斗が歩きながら思いだしていると、少しだけだがあの時の様子を思いだした。あの年は、遥斗が初めて甲子園を見た年だった。そのあまりの迫力とかっこよさに感動した記憶がある。
 
 それでも流れ星に約束なんかをするだろうか。
 
 
「甲子園……言ったような、言ってないような」
 
「言ったの!」
 
 
 光の声と顔と態度があまりにも真剣なので、遥斗は少し驚いた。彼女は、さっき彼の腕に絡みついた時みたいに、関西人らしくノリで行動することが多い。
 
 だがそういうときは決まって顔が笑っていたりして、真剣ではないことが誰でも分かる。今回みたいに声も顔も態度も真剣なときは、真剣な話のときだけだ。
 
 
「遥斗も小さい頃は野球少年やったんやな」
 
「いや、俺はお前と違って野球なんかしたことない」
 
「でも甲子園って……」
 
「昔の俺がどうかしてたんやろ」
 
 
 その言葉を自分自身にも言ってみるが、どうも腑に落ちない。今まで遥斗は嘘をついたり、約束をやぶったことは一度も無かった。
< 9 / 77 >

この作品をシェア

pagetop