『サヨナラの向こうにあるもの』
第一章「優二」
優二など愛してはいなかった。


愛とかそんな面倒なものではない、そう思っていた。



電話口で優二が泣きながら訴えている。


「うるさいなぁ…
だから 愛せないのよ。」


私の心が叫んでる。


「もう最後にするよ。
僕のために何か言ってよ。」



しばらく時間をおいて、私は黙って電話を切った。


結局 優二とは何度かなんとなくキスをし、なんとなく寝た。


それも飲んだ帰り道。
よくありがちの成り行きに、特別な感情も湧いては来なかった。


だから恋人と呼ぶには何か足りなく、何か余分だった。



うまく言えないけど、縁がないと云う事かもしれないと、大人がよく口にするつまらない言葉を思ったりした。



名前の通り優しさが全てのような優二は、少しだけハンサムで綺麗な指をしていたけど…



穏やかな微笑みが似合う利発な人物に見えたけど…




だけどその時、優二に恋なんかしてはいなかったと、私はそう思っていた。
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