『サヨナラの向こうにあるもの』
第十章「陽ざし」



優二にサヨナラしたその翌年、初めて優二からの年賀状が届いた。

新年の挨拶と、新しい住まい、そして結婚したこと。


優二の名前の隣に並んだもう一つの名前は、
凜として、自信に満ちあふれているように見えた。


あの日から、私は苦しみの中で、もがき、叫び、そして泣いた。

だけど、誰のためでもなく、揺るぐことのない自信の中で生きて行く事は、
孤独を伴い、険しい道を進み、
自分で切り開いて行くものだと云う事を学んだ。


優二に対する私の想いは、きっといつか 美しい物語になって、
私の痛みを慰めてくれるだろう。


醜い姿をさらけだし、のたうち回った事さえ懐かしく思える時が来る事を、
今ならしっかりと解っている。


優二は言ったよね。


「いつか、会える日が来るかな」 って。


そんな日が、穏やかな陽ざしの中で現実となり,
眩しく微笑み合う瞳が時を戻す瞬間を、私は待ってみよう。



勝つことの重要さより、負けない強さを知り、
優しさの隣にある真実の尊さこそが、幸福へ続く道だった。




あの頃、遠い未来に輝きだけを追い、憧れや祝福や、
美しいものばかり信じたいと願っていた頃、
優二と過ごした日々。


そして今、私はその未来の中にいる。



あれから何度か恋をし、歳を重ね、私は結婚をした。


優二に知らせなかったのは、いつか会える日までの願掛けのようなもので、
それはもう ”夢“ に似た感情だった。


優二、私は元気でいるよ。

あの頃から もう十年が過ぎたんだね。


私は一度 パソコンの検索で、優二の名前を探した事がある。


知人のホームページに書き込みをしている文章を見つけ、
少し歳をとっただろう優二を想像し、
しばらくその画面から目が離せなかった。


日付けが二年前だった事に気付かなかったのは、
あまりに懐かしく、嬉しかったから。


だけど、平穏な日々が、その日 形を変えた。


一通の封筒が私のもとへ届いた。

差出人は、優二の隣に並んでいた名前 “文香” と書いてあった。
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