『サヨナラの向こうにあるもの』
第十二章「サヨナラ」



優二の書き込みを見付け、懐かしさと嬉しさに踊っていた時間、
それは優二が私に会いに来てくれた、
最後のデートだったような気がする。


日付けが二年前だったのも、
偶然だけではなかったのかもしれないと、そう思う。


優二は素敵な女性を選んだんだね。


文香さん、あなたの、その寛大な心は,
誰よりも優二にふさわしい女性だと思われ、
顔も知らない私にペンをとる勇気は、
優二にしっかり愛されていた証しなのだと感じられる。






「マリエ、僕が書くこの手紙が君の手に渡る事はあるんだろうか。

僕が結婚する事を、マリエはどう思った?

子供が先だから少しカッコ悪いし、
ほんとの所そんな事を手紙に書くのはとても苦手です。

だけどやっぱりマリエに僕の気持ちを伝えておかないと、
さよなら出来ないと思ったんだ。


文香は平凡で、ちっとも美人じゃないけど、
僕らは似ている所が沢山あるんだよ。

音楽を仕事にしている事。

好きな映画も、笑うツボもよく似ている。

一緒にいると、居心地が良かったんだ。



マリエに初めて会った日の事を僕は鮮明に覚えているよ。

グリーンのシャツを着て、長い髪を揺らしてキラキラしてた。

とても綺麗だったよ。


僕はマリエの事がその時から大好きだった。

マリエが笑うと幸せだった。

ずっと一緒にいられたらどんなに素敵だろうって
いつも思ってた。

僕は思うんだ。
人を愛したり、傷つけたりしながら大人になろうとする時、
どうしても忘れられない人に出会えた事は、幸せな事だなって。


僕にとってはマリエがそうだよ。


だけど、今僕は文香を愛して守って行ける自信があるんだ。
それはね、文香が僕だけを見つめてくれているから。


マリエがあの朝、淋しい顔で僕を見つめた時、
心のどこかで、決めていたんだ。

サヨナラしよう って。


マリエに恋して、苦しんだ事もあったけど、
出会えた事に感謝している。

マリエ ありがとう。
忘れないよ。」


何度も書き直した跡がある。



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