-三日月の雫-
幼馴染

「尊、おまえは小野寺さんのお孫さんと仲良くしてやりなさい」


「はい。わかりました」



まだ幼かった自分に、父が告げた命令は未だ鮮明に脳裏に蘇る。


優秀な兄たちと違い、後妻の連れ子であるハンパ者の俺が存在価値を見出す為の方法。


強力な後ろ盾を得て、兄たちと……宮越の家を守っていくことだった。



「雫希、ほら」

「…………」




雫希と初めて会ったのは、それから数日も経たない内だった。


「尊くんよ」



優しそうな柔らかい物腰の小野寺の祖母さんに連れられて来たのは、表情の乏しい人形のような女の子だった。


初めて会う俺を、雫希はただじっと窺うように見つめているばかり。



「遊ぼっ。雫希」


父の命令を思い出し、俺は得意な作り笑顔を浮かべて雫希の手を握った。



驚いたように俺を見つめる茶色の瞳が、戸惑ったように遠慮がちに俺の手を握り返す。



それからはただ、日が暮れて小野寺の祖母さんが迎えに来るまで雫希のご機嫌取りをした。


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