-三日月の雫-
「我が儘で気紛れな幼なじみが、多額の財産に変わった瞬間」
「……尊っ」
俺を見上げる雫希の表情が、小さく歪んだ。
ずっと消えない胸の中の黒いものを吐き出したい。
俺なんて存在……もっと、蔑めば良い。
俺が必要とされているのは、小野寺と宮越を繋ぐ為の道具として。
誰も宮越 尊なんて存在、必要となんてしていない。
「……おまえは、跡取りの道具として、小野寺の家に置かれてたんだ」
「……えっ」
驚きで目を見開いた雫希は、信じられないと言わんばかりに俺の瞳を見つめ続けている。
そんな哀しい顔なんかしなくていい。
……本当の跡取りの道具は俺なんだから。
「十八になったら……雫希を貰いに行くよ」
「っん!」
だからせめて、雫希は俺の存在理由で居て?
縋るように雫希の細い首筋に、強く唇を押し当てた。
強く吸い上げたその場所を押さえ、雫希は涙を滲ませる。
いくら望んでもそこにきっと、愛なんていう温かで幸せなものなんて生まれない。
今にも泣き出しそうな雫希を残して、俺は教室から逃げ出した。