-三日月の雫-
記憶
あんな形で自ら雫希を失ってしまったことに、自分でもどうしようもないくらい苛立っていた。
どうしてあの時、動揺しているであろう雫希に優しい言葉を掛けて、安心させてやらなかったのか……。
そうすればきっと、雫希は俺や宮越家の真意など知らずに今まで通りで居れたはずなのに。
それが出来ない程に俺は、兄たちの言葉に愕然としてしまっていたんだ。
宮越 尊という人間に存在価値なんて無いって認められなかった。
もう、跡継ぎも宮越もどうでも良い。
あの頃に戻りたい。
「バイバイ尊っ。また明日」
また明日……。
手を振る雫希の笑顔が、当たり前の様に隣にあった。
跡取りも父の命令も関係ない。
ただただ楽しいだけの二人の時間。
ずっと純粋なまま雫希と居た時間に、戻りたかった。