-三日月の雫-
怯えたように俺を見上げる雫希はまるで、俺を拒絶しているようだ。



おまえまで俺を、厄介者だって言いたいのか?



「祖父さんたちから何も聞かされて無いんだろ?」


「…………」



白く柔らかな雫希の頬を指で撫でた。

紅潮したその表情に、何故かどうしようもなく壊してしまいたい衝動に駆られる。



「跡取りだった雅晴(まさはる)さんが亡くなってしまった。……そこで白羽の矢が立ったのがおまえ」



雫希が何も知らないのを知っていて、冷たく言い放っていく自分はひどい人間だと思う。



「母親が居なくなったおまえと、仲良くしてやってくれって頼まれたのが始まり」


それは、俺と雫希の出逢い。


父の命令で出来上がった幼なじみという関係。



「いずれ、全てを雫希に譲るつもりでいる。だから、君には雫希を支えて貰いたい」


昨日、病室に訪ねた小野寺の祖父さんから言われた言葉。



雫希は俺とは違う。
両親が亡くとも、祖父母の深い愛情に守られている。
必要とされている。



だったら俺は……?
俺は……誰に愛され、必要とされているんだ?




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