Bloody Kiss
日も暮れ始めたため、酒場は繁盛していた。猟師であろう厳つい感じの男たちが酒を飲み煙草を吹かしている。
その様子に思わず顔をしかめる。

「お嬢ちゃん見ない顔だねェ、旅人かい」

しまった、絡まれた!

そう思った時には左手を掴まれていた。

「えらいべっぴんさんだなァ」

完全に出来上がっている男はニヤニヤと卑しい笑いを浮かべて私の手を撫でてくる。

「離して!」

なんとか逃げようと手を引っ張ってみたけど、男も負けじと力を入れてくる。

そんなやり取りをしていると、突然右手を掴んでいた恢の手が離れ、そのまま腰に回って抱き寄せられた。

「えっ?」

驚いて恢を見上げると、いつになく不機嫌そうな顔をしていた。

私がこんなところで足止めを食らってしまったから機嫌を損ねてしまったのかも……。

「生憎コイツは俺のモノだ。お前ごときが触るな」

「……っ!」

恢の言葉に思わず胸が高鳴る。

『俺のモノ』

それは「あの吸血鬼を誘き出すためのエサとして所有している」という意味だってわかってはいるけど、期待してしまう。

恢が私を――…。

……ううん。ありえない。期待なんて、するだけ無駄なんだから。



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