Bloody Kiss
恢が手配していた車の後部座席に二人で乗り込む。行き先はもう伝えてあるのか、乗り込むとすぐに車は動き出した。

『エリィ』について、聞いた方が良いんだろうか。

車に揺られながらそんなことを考えていた。

「何か言いたいことでもあるのか」

「えっ、なっ……何で?」

突然の質問に動揺する。

「…………」

動揺している私を恢は無言でまじまじと見つめてくる。

「えーっと……」

「悪い、ちょっと止めてくれ」

『エリィ』のことを聞くべきか悩んでいると、恢が突然車を止めた。
駅を出発してからまだ数分しか経っていない。目的地はまだ先のはずだ。

「恢、まだ屋敷は……」

「少し待っていてくれ」

「え、ちょっ……、恢?」

恢はそのまま車を降りて目の前の店に消えていった。

「お花屋さん……?」

色鮮やかな花が店頭に並んでいる。ここは間違いなく花屋だ。

こんなところに一体何の用があるのだろう。

……まさか、『エリィ』に?

そんなことを考えていると、恢が花束を抱えて戻ってきた。

「行ってくれ」

そう言うと車はまた動き出した。
窓の外の景色が流れていく。
その景色に一つの疑問が生じた。

「恢、道間違えてない?屋敷は逆方向だよね」

そう、車は屋敷と逆方向に向かっていたのだ。

「いや、この道で合ってる。屋敷に向かう前に寄るところがある」

「……寄るところって、エリィさんのところ?」

迷ったけど、口に出してしまった。
いずれにせよ恢を欺き通すなんて不可能だ。だったら一思いに聞いてしまった方が良い。問題を先延ばしにしたところで、結果は変わらないのだから。

恐る恐る恢の表情を窺う。

ほんの少し、驚いているように見えた。

「お前、エリィのこと……」

その先が声になることはなかった。
恢は続きを言おうとしたけど、そのまま口を噤んでしまった。
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