Bloody Kiss
それから程なくしてまた車が止まった。今度こそ目的地に着いたのだろうか。

「着いたぞ」

先に降りた恢に続いて車を降りる。

「恢、ここが目的地?」

そこは郊外にある霊園だった。予想外の場所だったから思わず尋ねる。

「あぁ」

恢は頷いて霊園を歩いていく。その後を追いかける。

「ここだ」

そう言って立ち止まったのは、何の変哲もない墓の前だった。恢はそれ以上何も言わず、来る途中に買った花を供えた。あの花束は献花だったのか。

「……」

墓表を見るとよく知った二人の名前が刻まれていた。確かめるように指先でその名をなぞる。

「お父さん、お母さん……」

あの日、吸血鬼に殺された私の大切な人たち。
恢に拾われた後、二人の亡骸や血にまみれた家のこと、ずっと気になってはいた。でも確かめるのが怖くて、聞けなかった。

「……このお墓は恢が?」

「いや。俺は弔えるような立場ではないから、後始末に来た協会の奴らに任せた」

「……そう」

そうか。二人ともちゃんと弔ってもらえてたんだ。良かった。

「連れてくるのが遅くなって悪かった」

「ううん」

即座に首を振った。
もしあの後すぐにここのことを教えられても来ることなんて出来なかっただろう。
時間が経って、気持ちが落ち着いた今だから二人の死と向き合える。あの残酷な光景はちらつくけど、それだけじゃない。ちゃんと二人の笑顔を思い出せる。幸せだった瞬間を思い出せる。

「恢、ありがとう」

恢は何も答えなかった。でも、傍にいてくれる。それだけで十分だ。

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