拝啓、ばあちゃん【短編】
真っ昼間からばあちゃんを訪れる俺に、おばさんが顔を歪めながら言う。


「子供の本分は勉強する事でしょう?」


「将来ろくな大人にならへんわね!」


「あなたのお父さんは、甘過ぎるわ。お母さんは、てんで話にならへんいい加減な人やったし。あなたはきっと、お母さんに似たんでしょうね」


その言葉は、決して俺を心配して叱るものではなかった気がする。


身内に俺みたいな人間がいる事が気に食わない、あまり関わりたくない、そんな下げすんだ目で、おばさんは俺を見ていた。


それでも俺は、この家を訪れた。


ただ、ばあちゃんに会いたかったから。


おばさんもおじさんも親戚達も、母さんの事を悪く言う人間は腐るほどいたけれど、ばあちゃんだけは違ったのも、俺がばあちゃんを好きだった理由のうちのひとつだった。


「佐代子さんは素敵な人だったよ」


母さんの記憶が曖昧な俺は、ばあちゃんのその言葉で、何となく救われていたような気がする。


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