拝啓、ばあちゃん【短編】
そんな俺に、ばあちゃんは何も言わなかった。


それどころか、俺に沢山の事を教えてくれた。


庭に咲く花や野菜に水をやって、一緒に世話をした。


それが実った時はとても嬉しかった。


昔話は何回も聞いた。


戦争の真っ只中、陸軍だったじいちゃんは満州に行っていた事。


無事に帰っては来たものの、流行り病の結核で亡くなってしまった事。


それは学校の教科書を読むよりも、リアルに俺の中に入ってきた。


買い物に出かけた時には、『漫画で読む、日本の歴史』という本を買って貰った。


おもしろくて、ページが擦り切れるほど、何度も読み返した。


おかげで俺は、日本史はけっこう得意だったりする。


小学校を卒業するまでのほとんどの時間を、俺はばあちゃんと過ごした。


俺はこの時、ばあちゃんに甘え過ぎていた。


何も言わないばあちゃんに、本当は誰よりも俺を心配してくれていたばあちゃんに、俺を守る為に陰で支えてくれていたばあちゃんに、ただただ、甘えていたんだ。


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