拝啓、ばあちゃん【短編】
その時、通り過ぎた女二人の甲高い声が背中越しに聞こえた。


「てか、邪魔やって!」


「ノロノロすんなよ!ババアが自転車なんか乗んなや!」


ふいに振り返った先には、いつも良く行く定食屋のおばあちゃんの姿。


おそらく偶然通りかかった車に、自転車のおばあちゃんがよろけてしまったのだろう。


おばあちゃんが申し訳なさそうに頭を下げると、女二人は肩で風をきるように、その場を去っていった。


女二人が次の角を右に曲がるのを確認してから、俺は急いでおばあちゃんの元へ駆け付けた。


「大丈夫?」


自転車かごのビニール袋から覗くのは、いかにも重そうなものばかり。


醤油にみりん、大根にキャベツ、きっとお店の買い出しの帰りなのだろう。


「情けないね、年をとると、思うように体が動かんさかいに…」


フーッと溜息をつくおばあちゃんは、重たそうに自転車のハンドルを支えている。


「店まで?運ぶわ」


俺はそのハンドルに手をかけて、おばあちゃんに笑いかけた。


そんな俺の顔を見て、目元をしわくちゃにしながら、おばあちゃんも笑った。


「優心君は名前の通り、優しい子やね」


いつだっておばあちゃんは、俺にこう言う。


そう、大好きだった俺のばあちゃんと、同じ言葉を。


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