拝啓、ばあちゃん【短編】
「おばあちゃんの様子どうやった?」


アイスコーヒーを差し出しながらおばさんが聞く。


ばあちゃんの様子?


何で俺にそんな事聞くんだ?


不思議に思いながらも、差し出されたアイスコーヒーに口を付ける。


思えばこんな風に扱われる事自体、初めての事だった。


「別に普通やったけど」


俺の返事を聞いたおばさんは、軽くため息をついた。


「きっと今日は、調子が良かったんやわ」


俺は何が言いたいのか分からず、黙って続きを促した。


そしておばさんは、やっぱりいつもの歪んだ顔になって、ため息と一緒にその先の言葉を俺にぶつけてきた。


「あの人、ボケてるわよ」


ボケて…る?


アルツハイマー型認知症。


記憶喪失や記憶障害、脳細胞が壊れていく事によって起こる、れっきとした病気である。


小難しい言葉を並べるおばさん。


「ひどいもんよ。あたしや夫、孫の顔さえ分からんみたいやし。あなたもそのうちそういう日に出くわすわ」


それを理解するのは難しいけれど、昨日に感じた違和感、今日までの不安な気持ちは、それを裏付けるには十分だった。


やっぱり…


俺は小刻みに震える両手をギュッと握り締めた。


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