拝啓、ばあちゃん【短編】
土曜日。


俺は待ち合わせの前に、いつも通りばあちゃんの家に寄った。


顔くらいは見せないと、そう言い聞かせながらも、本当は俺の方がばあちゃんに会いたかったのかも知れない。


玄関のドアをゆっくり開ける。


「いい加減にして下さい!」


その時、奥から聞こえたのはおばさんのヒステリックな怒鳴り声。


何があったんだ?


俺は慌てて靴を脱ぎ、その声の方へと足を進めた。


キッチンで鬼のような顔をして立ち尽くすおばさんと、俺が来た事に気付かず、肩を落としていそいそと奥へと歩いて行くばあちゃん。


焦がしたような匂いがたちこめるキッチン。


床の上で無残に広がっている卵と小麦粉。


ばあちゃんが何かを作ろうとしてこうなった事は、容易に想像出来た。


俺に気付いたおばさんが重たい溜息を漏らす。


何となく居心地が悪くて、俺は無言で床の上の殻を拾い集めた。


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