拝啓、ばあちゃん【短編】
しばらくして、俺はばあちゃんの部屋に向かった。


「ばあちゃん…」


縁側で、背中を丸めて小さくなっているばあちゃんに声をかける。


聞こえていないのか、庭をボーッと見つめたまま、振り返らないばあちゃん。


俺はその隣にゆっくりと腰をおろし、ばあちゃんの視線の先の朝顔を眺めた。


いつだったか、ばあちゃんの調子の良い日に、一緒に植えた朝顔だった。


「綺麗に咲いてるな」


そう言って、ばあちゃんに笑いかける。


その瞬間、俺の胸がドクンと大きな音を立てた。


くぼんだ目頭と皺々の頬に光る、透明の液体。


「優ちゃん…」


ばあちゃんは俺に気付き、淋しげに微笑む。


「早くおじいさんのところに行きたいよ」


そして、静かにそう言った。


< 31 / 56 >

この作品をシェア

pagetop