拝啓、ばあちゃん【短編】
あの日、俺はあてもなく走り回った。


近所の人、商店街を歩く全く知らない人、出会う人全てに、「乳母車を押したばあちゃんの姿を見かけなかったか」、と尋ねながら。


それでも何の手ごたえもなく、寝静まっていく民家の灯りは消えていき、終電を過ぎた商店街を歩く人の姿もなくなっていく。


俺は掌にかいた汗をTシャツで拭った。


汗を存分に吸いこんだ、じっとりと湿るTシャツの感触。


ばあちゃんは今、どこで何をしているんだ…


そう思うと、足を止めてはいけないような気がして。


俺は再び走り出す。


すれ違っているかも知れない、そんな思いで何度も何度も近所と商店街を回った。


もしかしたら、そう思いばあちゃんの足では無理だろうと思うような場所も探してみた。


それでも、ばあちゃんの姿はなく。


途方に暮れた俺は午前2時を回った頃、一度自宅に戻った。


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