アッパー・ランナーズ〜Eternal Beginning〜
《カンジ》。パニーニ先生の通常授業(ワークワーク)で簡単なやつは習った筈だけど……読めねーや。


『百花繚 乱』


異国の文字でアリバイパスに記された名前と顔が、確かにそこにあった。


あの時はダボダボな工夫のような格好をしていたから気がつかなかったが、(いや、一応今も着てはいるのだが……)もはや間違いようがない。

肩まで伸びるしなやかな亜麻色の髪。と、おでこ。

薄い空のようなブルーの瞳。と、おでこ。

背は高いが、細い手足に付いた膨らんだ胸元。と、おでこ。

綺麗に日焼けして健康的な―――


「お、女……の人?」


だった。

てっきりあんな格好してあんな身軽に動くから男だと思っていたが、なる程、財布の写真は綺麗な女の人の写真だ。

今とてつなぎの前のジッパーを大胆に開け、黒のチューブトップのヘソ出し姿。それにブラウンカラーのコンバットブーツを完璧に着こなされては、あのダボダボ工夫を思い出せという方が難しい。


このファーストインパクトを、ぼくは一生忘れないだろう。

神なんて信じてはいないけれど、懺悔したくなった。

ああ、その姿をぼくは、1秒が1時間にも感じられる程に見て・見とれて・見つめてしまいました。

それこそ穴が空くほどに、です。以上。


彼女は今までに見たことのない、不思議とぼくを惹きつけるオーラを放つ広いおでこの麗人だった。


「ちょっとチビ助」

ちょうどぼくの懺悔が終わった所で、例のおでこにゴーグルをかけ、ポジションが気に入らないのか革のグローブをはめた手でいじくり回しながら、そのおでこ……いや、女の子は話しかけてきた。

いやぁ、どうも機嫌が悪いらしい。

ん?というかそもそも初対面、そうじゃなくても面識二回目の相手にいきなりの『チビ助』って何だ!おい。

失礼だなと反論しかけたぼくの言葉を制して、女の子はゴーグルを外すと“お前の存在が許せねぇ”といった表情を向けてきた。


「あんたがスってくれたその財布……中身は見た?」

有無を言わさぬ厳しい口調につい首を縦に振ってしまっ―――


「じゃあ悪い。死んで」


「いぃ!?」

―――たことを後から悔やんだ。
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