アッパー・ランナーズ〜Eternal Beginning〜
彼女は、つなぎ姿でよくぞこれだけ動けるなと感心してしまうほど、一切の無駄なく機敏かつ俊敏に――しかし、それを受ける側のぼくに、そんな他人の一挙手一投足に誉め言葉を吐く余裕などあるわけが無く――まさに一瞬で大股五歩程の間合いを詰めて―――。


「どかん」


と。言いながら。

「―――!?」

脇腹で何かが炸裂し、同時に襲った凄まじい衝撃。

爆発。エクスプロージョン。

それが、その時上半身だけ捻って後ろを見たぼくが感じた恐怖。まさに恐怖だった。

息が止まった。

心臓も止まった気がした。

痛いなんてもんじゃない。軽く肋骨を何本かいったようだ。

それが、平たく言えばぼくの左脇腹へのただのローキックだったのだが、如何せん、場所と相手が悪かった。

目測地上30メートル。カルガンチュア旧採掘場の古い鉄橋の上に座っていたはずのぼくの体は、まばたきする間もなく、次の瞬間には強制撤去させられた。

つまり、一応在るはずの55のキログラムが嘘のように、赤錆著しい鉄骨の上からぽっかり奈落が口を開ける空宙へ。

投げ出された。

否。蹴り出された。

地上30メートルだ。


「う―――うわあああっ!!」

状況が理解できないまま、急遽奥底から掻き立てられた生存本能に従い、落ちながらがむしゃらに腕を伸ばす。

しかし現実は映画じゃあるまいし、丁度よく掴める何かなど桃色の西瓜ぐらい存在しない。

事実、ぼくを間一髪助けたのは、なんの変哲もない、やはり途切れている一段下で交差するもう一本の線路だったんだから。

蹴られた肋骨からもろに落ちたものの(再び息が止まったが)ぼくはなんとかまだ生きていた。
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