アッパー・ランナーズ〜Eternal Beginning〜
「おいちび助」

どうにかこうにかこの窮地を脱する手段を考えていると、呆れる程までに高飛車な口調でちび扱いされた。

「……なんだよ―――」

「お前」

“おでこ女”と嫌みを言いかけた所で、計ったように上手い具合で機先を制された。

「所属種はなに?」

所属種―――つまり生まれついて持った人としての価値は、全部で5段階に分けられる。

それは一生涯変わることはなく、変えることも出来ない。言うなれば目の色のようなものだ。

ちなみにぼくは下から二番目。

「……なんの変哲も特技も価値もない只の“歩む者(ウォーカー)”ですが?」

これから殺さんとする相手にそんな事を聞いてどうするんだと思った。

しまった!嘘をついて上位種って言えば助かったかもしれないとも、後から思った。

「へぇ?ウォーカー(一般人)ねぇ。嘘じゃなさそうだけど。……へぇ」

右手でその小さな顎を掴み、左手を添える形で小首を傾げながら、美麗な彼女は意外といった表情を浮かべた。

何がおかしいのだろう。この世界の全人種で一番多いのがウォーカーなのに。

それこそ最上位種と目される、背に四枚の白鳥すら羨む純白の翼をはためかせ、宵と暁の空を繋ぐと言われる“天の使い”―――エンジェラーなら分かるんだけど。

「それが何だよ」

「いいえ、別に。まあこれから死ぬ人には関係のない事よ」

むぅ。やはりぼくを殺す前提は揺るがないようだった。

親切に財布を拾ってやったのに(真実がいつも正しいとは限らないのだよ)中身をちらっと見ただけで死ねとはなんだ。明らかに暴力の無駄遣いだ!横暴の極みだ!

「なら」

と。ここで思わず火に油を注ぐ余計な一言を言ってしまうのが、ぼくの四十二の悪癖の一つだ。直せるならそりゃ直したい。

「おでこのあんたは何者なんだ?」

返答は、一陣の風が吹き抜けるように一息で詰められた間合いと、水月を掌で突かれた軽い衝撃と共に帰ってきた。

「只の“天の使いの成れの果て”よ」

トン。
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