アッパー・ランナーズ〜Eternal Beginning〜
刹那、琥珀色の眩い光がぼくの視界から白銀の月もおでこ女も消し去り、そこには満々と水を湛えた大瓶のように、今にも溢れ出さんばかり力を詰め込んだ一振りの獣の翼のみが残った。

「なんだ……?」

仰向けで腕を持ち上げた体制のまま、別次元にでも来たようだった。

辺りから常識は掻き消え、時は止まり、空間は凝結した。

力だった。禍々しくも神々しい、圧倒的なまでの、畏怖の念を抱くことすら心苦しい程の。

その力がぼくを呼んでいる。

己を使えと、言葉にならぬ言葉、イメージを成さぬイメージではっきりと呼んでいた。

不意に生まれたこの時間で多少なり冷静さを取り戻した僕の頭は、突然ぼくの一般常識の概念をぶち壊した得体の知れない物体に命を預けることを、躊躇った。

だが身体は、肉体は、生き延びたいと、黙示された一抹の希望にすがれと、揺れる精神を征して翼に運命を委ねた。

それが神の気まぐれだろうと悪魔の罠だろうと、僅かに顔を覗かせた生を掴み取る。

翼がその思いに呼応するように、琥珀色の光で照り輝き、力の鱗片を僕の方に伸ばしてきた。

「ままよ!」

どうせこのままじゃ命はない。助かるのなら、後は野となれ山となれだ。
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