アッパー・ランナーズ〜Eternal Beginning〜
何が起きたかぼくが理解する頃には、ギシリと床板が鳴く声が聞こえ、床へ鞏固に押さえつけられたジジイの手から、一般的なセミオートマチックの小型拳銃が転がり落ちた。

「ジジイ!」

「あら、いきなり銃口を向けるなんて随分な歓迎じゃない? マエストロ・スウェル」

「ぐうっ……やはりランナーズ……恐らくはダッチマンの構成員か?主」

彼女はジジイが懐に手を入れた瞬間、まばたきをする間もなく床に組み伏せてしまった。

早い。あまりの早業に目が追いつけない。

そして彼女の強さを一度嫌という程味わっているぼくは、射殺すような空色の視線の一瞥でその場に釘付けにされ、一歩も動けずにいた。

抜けるようなその双眼は、ぼくを見ていながら何も見ていないようで……底知れぬ恐怖に背筋がぞくりとする。

彼女は口元を吊り上げて矢継ぎ早に言った。

「へぇ、そこまで知ってるなら話は早いわ。けれど構成員はないんじゃないの?あなたに私の一群を愚弄される筋合いなんて……まあいいわ、私は無駄話をしにきた訳じゃないの。単刀直入に聞くわ、『神無月の巫女』というのは誰?それにこの坊やの持っていた龍翼……あれを作ったのはあなたでしょう、マエストロ?」

「……」

考え込むように口を噤み、じっと自分にのし掛かる女を見るジジイを後目に、彼女は続ける。

「私達ランナーズは、必ず蒼空の頂(トップラン)にたどり着いてみせる。そのためなら……私は躊躇しない。迷いもない。それがたとえ、かつて翼匠―――ランナー達に翼の鍛冶屋と呼ばれた男を殺す事になってもよ」

「殺すって……待てよ!ジジイはただの宝石職人だ。その……翼の鍛冶屋?そんなんなんかじゃねえよ!」

第一、そんな話ぼくは聞いたことがなかったぞ。

ぼくの言葉を聞いた彼女は、不思議そうな顔を僕に向け、再びジジイに質問を投げかける。

「あら、まだ言ってなかったの?マエストロ。なら私が親切にこの子に伝えてあげるわ。えー、ごほん。ちび助坊や、あなたの一家はね―――」

「止めろ!」

ジジイの制止などどこ吹く風、彼女はぼくに平然と爆弾を投下した。

「“生ける伝説”とまで言われたランナーズの一群なのよ」
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