あたしだけを見て
第1章
存在価値
「花音(カノン)、ケーキ買ってきたけど食べる?」
「食べる!ヤッター、ケーキだ」
「花音は本当にケーキが好きねぇ」
お母さんと妹の会話を廊下でひっそりと聞く。
喉が渇いたからジュースを飲みにキッチンに行きたかったけど、
私の足は動かない。
この会話の続きがどうなるか知っているから。
「ねぇ、お母さん。お姉ちゃんの分のケーキは?」
「2つしかないし…お姉ちゃんには内緒で食べちゃいましょ」
ほらね、お母さんはこう言うに決まってる。
“お姉ちゃんには内緒”って。