空谷の跫音
空谷の跫音
「周っ!」
周(あまね)と呼ばれた少女は、自分を呼ぶ野太い声で目が覚めた。
「うぅ……ん」
頭がクラクラする。
ゆっくり体を起こすと、口の中に苦い土と血の味が広がった。
「周!無事か!?」
「秋(しゅう)ちゃん、私……い゛っ!?」
意識がはっきりしてくるにつれて、途端に右足に涙が出る程の激痛が走り出した。
見れば足首が曲がってはいけない角度まで折れ曲がって、真っ赤に腫れ上がっている。
既に切れているであろう血の味の唇を噛んで、頭をハンマーで殴られ続けているような痛みに耐えていると、ようやく事の起こりを思い出した。
「お前なんて飛竜さえいなきゃただの役立たずだろ?」
「女の癖に調子に乗ってるよなぁ」
「なら、使える奴って証明してみろよ」
「分かった。じゃあ飛竜(あの子)無しであの崖に生えてる火焔草(フレイムグラス)を採ってきてあげる!」
きっかけは単に自分の実力を誇張したかっただけ。
初の女性竜騎士になって、他の男性隊員から妬ましいのがありありと分かる視線を浴びて、それでやっきになって実力を見せつけようとしていた。
日本産の竜は気性が荒く、乗り手を選ぶ。
日本空軍の中でもトップクラスの成績を持ってしても、竜騎士になれるのはほんの一握りだけ。
さらに竜は、認めた者しか己に乗せようとしないので、竜騎士は必然的に全軍人の憧れと賞賛の的になる。
(それなのに私……こんな訓練中に……)
崖自体は訓練でよく使う何でもないものだったが、火焔草の突然の発火に驚いて足を踏み外した。
「自業自得じゃない!!」
思わず自分を罵る言葉が口をついて出た。
私、悔しいよ……。
いっそう強く噛み締める唇から、血がポタポタと訓練着に斑点をつける。
その中に透明な液体のシミも混じっているのに気付いて、初めて自分が泣いてるんだと分かった。
痛みなんてもう感じられなくなっていた。
周(あまね)と呼ばれた少女は、自分を呼ぶ野太い声で目が覚めた。
「うぅ……ん」
頭がクラクラする。
ゆっくり体を起こすと、口の中に苦い土と血の味が広がった。
「周!無事か!?」
「秋(しゅう)ちゃん、私……い゛っ!?」
意識がはっきりしてくるにつれて、途端に右足に涙が出る程の激痛が走り出した。
見れば足首が曲がってはいけない角度まで折れ曲がって、真っ赤に腫れ上がっている。
既に切れているであろう血の味の唇を噛んで、頭をハンマーで殴られ続けているような痛みに耐えていると、ようやく事の起こりを思い出した。
「お前なんて飛竜さえいなきゃただの役立たずだろ?」
「女の癖に調子に乗ってるよなぁ」
「なら、使える奴って証明してみろよ」
「分かった。じゃあ飛竜(あの子)無しであの崖に生えてる火焔草(フレイムグラス)を採ってきてあげる!」
きっかけは単に自分の実力を誇張したかっただけ。
初の女性竜騎士になって、他の男性隊員から妬ましいのがありありと分かる視線を浴びて、それでやっきになって実力を見せつけようとしていた。
日本産の竜は気性が荒く、乗り手を選ぶ。
日本空軍の中でもトップクラスの成績を持ってしても、竜騎士になれるのはほんの一握りだけ。
さらに竜は、認めた者しか己に乗せようとしないので、竜騎士は必然的に全軍人の憧れと賞賛の的になる。
(それなのに私……こんな訓練中に……)
崖自体は訓練でよく使う何でもないものだったが、火焔草の突然の発火に驚いて足を踏み外した。
「自業自得じゃない!!」
思わず自分を罵る言葉が口をついて出た。
私、悔しいよ……。
いっそう強く噛み締める唇から、血がポタポタと訓練着に斑点をつける。
その中に透明な液体のシミも混じっているのに気付いて、初めて自分が泣いてるんだと分かった。
痛みなんてもう感じられなくなっていた。