三国志疾風録
 事は一刻を争う。

 張飛が戻ってきたら簡擁を奪うチャンスが奪われる。

 周倉は人差し指を唇に当てて簡擁に目で合図を送った。
 受けて簡擁が唇を突き出し目を閉じたので危うく惹かれそうになるが、明らかに罠なので無視した。小さな拳がいつでも飛び出せる体勢なのを容易く見破れるぐらいに周倉は集中していた。

 そして緊張していた。
 
 首を飛ばすのが確実だが、それでは横の動きで関羽の視界に入ってしまいかねない。
 やはり直線の動きで突き刺すのがいい。
 心臓狙いならば多少ずれても致命傷だ。反撃する余力は残るまい。
 
 大儀の前の小事。悪く思うなよ。
 
 劉備の旗揚げには簡擁がどうしても必要なんだ。
 
 周倉はまだ目を閉じている簡擁からそっと離れ、抜き身の剣を手に音も無く関羽に忍び寄った。
 山賊をしていた頃から気配を断つのは得意だった。
 気配を消して旅人に近付き、悲鳴すら上げさせずに殺すのが得意だった。
 今回も同じ手順。
 躊躇いや呵責はないが、嫌な予感はあった。
 
 死相が出てる
 
 劉備の言葉が脳裏によぎったが、もう止まらない止められない距離に達していた。
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