ドリームビリーヴァー
僕らのクラスではたしか……塩焼きそばを作った。それがひどい味だったのを覚えている。原因は沙希が塩と味の素を間違って入れたせいだ。出来上がったコンソメ味の焼きそばは、残らず売れたけれど、あれは一種の詐欺だった。なんていったって看板にはでかでかと『塩焼きそばはじめました』と書かれてあったんだから。僕には苦情が出なかったのが、未だに不思議でならない。
「ねえ」
模擬店の隣、エセ塩焼きそば屋の小さな小さな休憩所で休んでいた時、後ろから急に僕に呼びかける声がした。
「ん?なに」
僕が後ろを振り向かずに、背後に立っている沙希にいった。「休憩時間終わりだよ」といわれるんじゃないかと思って、内心ビクビクだったけれど、沙希のやつがいったのは、もっと違うことで、僕の中には一気に安堵感が広がった。
「味の素って……塩じゃないの?」
僕が笑わなかったのは、相当すごいことだと思う。十六にもなって塩と味の素の区別が出来ない僕の幼なじみは、真顔でそんな台詞をはいたんだから。
「きっとみりんとお酢くらいの差なんじゃないの?」僕は答えた。
「大差ないじゃんか」
「でもさ、鶏のさっぱり煮を作るのにお酢を使う人はいないんじゃない?」
「うーん……」
休憩所の中にいたのは、僕と沙希だけだった。他の生徒たちはエセ塩焼きそばを作ったり、わずか四ヶ月の間に出来た意中の異性と他のクラスの模擬に出かけたりしていた。あと、仮病を使って帰っているやつも一人いた。
「ねえ」
模擬店の隣、エセ塩焼きそば屋の小さな小さな休憩所で休んでいた時、後ろから急に僕に呼びかける声がした。
「ん?なに」
僕が後ろを振り向かずに、背後に立っている沙希にいった。「休憩時間終わりだよ」といわれるんじゃないかと思って、内心ビクビクだったけれど、沙希のやつがいったのは、もっと違うことで、僕の中には一気に安堵感が広がった。
「味の素って……塩じゃないの?」
僕が笑わなかったのは、相当すごいことだと思う。十六にもなって塩と味の素の区別が出来ない僕の幼なじみは、真顔でそんな台詞をはいたんだから。
「きっとみりんとお酢くらいの差なんじゃないの?」僕は答えた。
「大差ないじゃんか」
「でもさ、鶏のさっぱり煮を作るのにお酢を使う人はいないんじゃない?」
「うーん……」
休憩所の中にいたのは、僕と沙希だけだった。他の生徒たちはエセ塩焼きそばを作ったり、わずか四ヶ月の間に出来た意中の異性と他のクラスの模擬に出かけたりしていた。あと、仮病を使って帰っているやつも一人いた。