ドリームビリーヴァー
「そんなに悩むこと?」

僕はため息雑じりで訊ねた。それはもちろん沙希にむけていったのだけど、当の本人は、まるで他人事のようにそっぽをむいていた。このとき、僕はまだ沙希のほうをむいていなかったけれど、それはたしかにわかった。

「だっておかしいじゃんか。味の素っていうくらいなんだから、何かを手を加えたら塩にだってなったっていいじゃんか」

「おまえは味の素が砂糖にもなりえると思ってるわけ?」

「なるんじゃないの?」

「じゃあきっと味噌にだってなるんだろうな」

「うーん……」

このタイミングで、僕は沙希のほうをむく。沙希は腕を組んで、首を左右に揺らして、考え込む。それを見ながら、僕がいった。

「なあ、だからさ。それってそんなに悩むこと?」

「そうじゃない?味の素が塩や砂糖になれないって大変なことじゃない?」

「別に」

沙希は僕の言葉を聞きもしないで、首だけでは飽き足らず、体ごと左右に揺らしはじめた。なんとかっていう昔の人が遊んだもの似ている。そうそう、やじろべえだ。

それから急に止めて、徳川の埋蔵金でも発見したかのような、そんな満足げな笑いを浮かべながら、僕にいった。

「んー。でもやっぱり味噌は無理だよね。だってあれ大豆でしょ?塩とか砂糖とかと全然違うもん。……あっ!じゃあさ、こしょうは?こしょうにはなれるよね?だってあれ塩みたいじゃんか。味だってけっこう似てるし」




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