紺色の海、緋色の空
「それで、結局彼はどうしたの?」

悲しい結末を予感しながら、シロナは少し俯き加減に尋ねた。

「もちろん、強行したよ」

山猫教授はじっと目の前の油絵を見上げ、静かに肩を落とした。

「メアリー拘束という重要な布石を欠いたまま、七月十日、ロンドン塔でエドワード国王の死とジェーンの女王即位が高らかに発表されたんじゃ」

「そんな」

僕は唸った。全貌を知らない僕でさえ、そのクーデターの危うさは理解できた。

ジェーンは前日までその計画のことを知らなかったという。

それだけジョンは情報の漏えいに気を配ったと言えなくはない。しかし、事態はそんな生やさしい対処で片付きはしなかった。

「突然のジェーンの王位宣言は、旧来よりジョンとは政敵関係にあった者たちからの激しい反発を招いた」

山猫教授は首を振った。

「それに、素行の悪いメアリーを嫌っていた貴族達でさえ、あまりに独裁的なジョンのやり方に反発し、メアリー擁立へと走って行ったんじゃ」

「それじゃあ……」

シロナはそのまま言葉を失った。

ダドリー家とグレイ家は、たちまち孤立した。

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