紺色の海、緋色の空
シロナの意見はもっともだった。確かに、あの男は今もきっとどこかで生きている。

そう考えただけで、僕の背中を激しい悪寒が貫いた。

「ねぇ」

シロナがポツリと呟いた。

「あなたが覚えている記憶は、本当にそれがすべてなの?」

「……え?」

僕は眉をひそめた。僕にはその言葉の意味がよく分からなかった。

シロナは続けた。

「もしかしたら、あなたが鍵を掛けた記憶のどこかに、すっぽりと抜け落ちている何かがあるのかも知れない」

そう思わない?

と言ってシロナは微笑み、僕を柔らかく抱きしめた。

「きっとあなたは、深く暗い海の底で、とても大事な何かを見失ってしまったのよ」

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