紺色の海、緋色の空
「観光客の悪戯だと言う者もおるがの、これは紛れもなくジェーン自らが一文字だけスペルを変えて掘ったものじゃよ」

「でもどうしてそんなことを?」

「そうさの」

顎を引き、ふむと呟いたきり、山猫教授は口を閉ざした。

次々と押し寄せる観光客の波の中、僕はじっと壁の前に屈み込み、「彼女」はなぜ僕にこの文字を絵はがきに書いて送りつけてきたのかと、その事だけを考えていた。

なぜ、ジェーン・グレイなのか。

分からない。
分からない。

『私には、どうしても早紀さんがそんな女性とは思えないの』

昨夜、シロナはそう言った。

『もしかしたら、あなたが鍵を掛けた記憶のどこかに、すっぽりと抜け落ちている何かがあるのかも知れない』とも。

最後まで強く生きたジェーン。

自殺した早紀。

そして、僕の中の抜け落ちてしまったであろう記憶の欠片。

それらはきっと、僕の知らないどこかで繋がっているに違いない。

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