紺色の海、緋色の空
昨日、ホテルの老婦人は何かを思い出した様子で手を叩き、僕たちの前でヒースが活けられた花瓶を持ち上げた。
花瓶は石膏でできていて、その底には尖った何か、例えばカッターナイフのようなもので削られた文字が見えた。
『親愛なるエミリーへ』
そう刻まれた文字の下に、この花と花瓶を寄贈した日付があった。
『1998.7.20』
それは、ちょうど十年前に早紀が首を吊って自殺した三日後の日付けだった。
そこに早紀という名前はない。
だけど僕には、とても一連の出来事が早紀と無関係であるとは考えられなかった。
「……エディンバラ」
僕は俯き、呻くように送り状に書かれた住所を読み上げた。
「スコットランドじゃな」
と山猫教授が言った。
そこはロンドンの遙か北。ヒースの栽培に適した、恰好の土地だった。
花瓶は石膏でできていて、その底には尖った何か、例えばカッターナイフのようなもので削られた文字が見えた。
『親愛なるエミリーへ』
そう刻まれた文字の下に、この花と花瓶を寄贈した日付があった。
『1998.7.20』
それは、ちょうど十年前に早紀が首を吊って自殺した三日後の日付けだった。
そこに早紀という名前はない。
だけど僕には、とても一連の出来事が早紀と無関係であるとは考えられなかった。
「……エディンバラ」
僕は俯き、呻くように送り状に書かれた住所を読み上げた。
「スコットランドじゃな」
と山猫教授が言った。
そこはロンドンの遙か北。ヒースの栽培に適した、恰好の土地だった。