紺色の海、緋色の空
「羊!」

ふいにシロナが声を上げた。

「どこ?」

シロナの指先に目を遣ると、一面に広がる草原の中に、草をはむ羊の群れが見えた。

「まるで別世界だ」と僕は言った。

「まだ幾らもロンドンから離れてないはずなのにね」

とシロナも頷いた。


「あそこにも!」

楽しそうに羊の群れを指さすシロナの横顔を見つめながら、僕は二つ目の疑問について考えていた。

それは、名前だった。

毎年ヒースをあの老婦人のホテルに届けていた送り主の名前。

『ジェシカ・アシュレイ』

老婦人は言った。

最初にこの花をくれたのは、若い日本人女性だったと。

しかし、その後毎年花を贈ってくるのは、到底日本人とは思えない、早紀とはまるで違う別の女性の名前だった。

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