紺色の海、緋色の空
「待ってるのよ」とシロナは言った。

「待ってる?」

「そうよ」

「いったい何を?」

僕が身をよじって質問を重ねると、シロナは少し寂しそうに呟いた。

「雨」

「アメ?」

「そう。空から降ってくる雨」

シロナはじっと空を見上げていた。

僕も一緒に空を見上げた。

思えば、雨が多いと言われるイギリスに来てからというもの、僕たちはまだ一度も雨に出会ったことがなかった。

「どうして雨を?」

僕はシロナの肩を抱き寄せた。

なぜか彼女が目の前から消えてしまいそうな不安に駆られた僕は、必死にシロナの細い肩を抱きしめた。

< 195 / 239 >

この作品をシェア

pagetop