紺色の海、緋色の空
出立の前、シロナはツバの大きな帽子かぶり、サングラスをかけて姿見の前でポーズを決めて見せた。

まるで旅行気分だ。

時々忘れそうになるが、そもそも彼女はクジラなのだ。荷物を用意したり、飛行機に乗ったりする必要があるのかさえ疑問だった。

「クジラだろ」

「そうよ」

僕が訊ねると、シロナは要領を得ない顔で小首を傾げた。

「だから?」

「なのに飛行機で行くの?」

「もちろんよ」

心配だもの、とシロナは言った。

「パスポートは?」

「これでしょ」

シロナはそれらしきものを手に、楽しそうにワンピースの裾を翻した。

「やれやれ」と僕は言った。

ため息を最後に、くだらない詮索はもう止めることにした。


こうして僕達は、機上の人となった。

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