紺色の海、緋色の空
僕は飛行機の窓から視線を外し、これからのことを考えてみることにした。

まずは消印にあったロンドンのリージェントストリートに向かい、ホテルを探さなければならない。

問題はそこからだ。

いったい何を頼りに「彼女」の足取りを追えばいいのか。

もちろん、僕達は「彼女」の軌跡を逐一トレースするつもりはない。

それでは十年もの間旅を続けている「彼女」の背中に追いつくことなど出来ようはずもないからだ。

とはいえ、せめて「彼女」が最初に訪れたであろう彼の地には、何かしらの意味があってしかるべきだと思えてならなかった。

たぐり寄せる糸口がまったく無いわけでもなかった。

たった一度だけ、「彼女」は絵はがきに僕の宛名と住所以外の"文字"を書いて寄こしたことがあった。

『IANE』

イアンとでも読むのだろうか。それが「彼女」の名前だった。

本名かは分からない。

仮にそうであれば、「彼女」は早紀ではないことになってしまう。

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