紺色の海、緋色の空
心地よい脳髄の痺れとともに、僕はいつもそこで目が覚める。

夢の終わりに目覚めるのか、それとも目覚めで夢が途切れるのかは分からない。

僕は夢の中でクジラの唄声を聴いているはずなのに、朝目が覚めるとそれがどんな音色だったのかをどうしても思い出すことができなくなる。

まあ、夢なんて大概そんなものだ。

「君の事は分かっているよ」と言う男に限って、本当のところは何も分かっていないのと同じだ。

口癖のように「君の気持ちはよく分かる」と言う男と同じだ。

僕がまさにそうだった。


「あなたに私の何が分かるの?」

あの日、早紀はそう言って、緋色に染まった教室を出て行った。


1998年の夏――

もう、十年も前の事だ。


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