紺色の海、緋色の空
僕は小さく息を吐き、改めてホテルのロビーを見渡した。

建物こそ古びていたが、置かれている調度品には埃一つかぶっていなかった。

僕はふと、ロビー中央に置かれた花瓶に目を奪われた。

そこには、紫ともピンクとも見える可憐な花が咲いていた。

何という花だろうか?

どこか儚く、それでいて生命の強さを感じる花だった。


「そうそう!」

ふいに何かを思い出したように、老婦人が眼鏡をずり上げて手を打った。

「イアンという名は珍しくなくてね、私の姪の孫にとっても可愛い……」

「あ、いいです。また今度」

僕は慌てて老婦人を遮り、シロナを促してホテルを出た。

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